結城東輝(ゆうき・とんふぃ)と言います。名前からも推察できる通り、日本人なのですが韓国系の家庭に生まれました。大阪で生まれ育ち、大学から大学院まで京都にいて、弁護士になった後で東京に来ました。それからKenさん(鈴木 健/代表取締役会長)とアメリカでたまたま出会い、それがご縁でスマートニュースに4年前に入社しました。
2016年にアメリカに行ったのですが、理由はアメリカの民主主義がとても面白そうだったからです。当時は、ドナルド・トランプが共和党の予備選挙で大統領候補に選出されるタイミングでした。もともと僕は共同体とその情報空間というものに興味があったんです。日本と韓国という2つの国にオリジンを持つ複雑なアイデンティティから、共同体、個人の幸福、民主主義といったテーマに自然と強く興味を持つようになっていました。
そして大学院生の頃、今の民主主義が機能不全を起こしているように感じ、民主主義を次のフェーズにアップデートするようなことをやりたいなと思い、自らNPO を作りました。そして渡米し、アメリカの情報空間でどういうふうにフェイクニュースが作られているのか、どんな風に人は情報を取得し、議論し、政治的な意思決定をするのかなど、現地に滞在しながら学びを深めていました。
当時自分のブログを読んでくれたKenさんから突然メッセージをもらったんです。メッセンジャーで「会いませんか?」と。会ってみたら、スマートニュースを経営している人だと気づきました。SmartNewsというサービスはもちろん知っていましたし使ってるアプリだったんですけど、KenさんのことはスマートニュースのCEO(当時)としてではなくて、『なめらかな社会とその敵』の著者として、フィロソフィーを持った思想家・鈴木健として認識していました。
スマートニュースという会社は、最初はただのニュースアプリの会社なのかなと思ってたんですが、直接Kenさんを知るようになり、会社とプロダクトにはKenさんとKaiseiさん(浜本 階生/代表取締役社長 CEO)の深い思いがあることを知りました。僕は弁護士になるつもりでしたし、Kenさんに入社を誘われたわけではなかったので(Kenさんとしては誘っていたつもりらしいのですが…笑)、当時はそのまま法律事務所に入りましたが、何年か経ってから正式にKenさんから誘われ、2019年10月にスマートニュースに入社しました。
そもそも法というものにすごく魅力を感じて、自分は弁護士になりました。やっぱり、共同体や個人の幸福、民主主義というものに興味を持っていたので、社会をつくる時のルールづくりとその運用、その最前線にある法律の実務家になることは必然だったように思います。僕たち人間は社会性を持った動物なので、ルールや決まり事、あとはコントラクト(契約)でこの社会は成り立っています。たとえば、SmartNewsを使う時もそうですし、Google のサービスを使う時もそうですし、YouTubeもそうだけど、人は毎日のように何かしらの契約を結んでいます。
世の中って意外に、そういう決まり事でできている世界で、法律というのはその手段。パーパス(目的)じゃないんですよ。弁護士でいることはゴールではなくて、社会におけるルールや契約を手段として使える肩書きだなと思って。人がこれからこの社会を幸せに生きていくために、法律に対する深い知識を持つとか、ルールに対して適切な運用をしていくことは不可欠だし、とっても面白いと思います。だから今、弁護士を続けています。
法務チームのマネージャーを務めています。グローバルな市場で戦う会社の中で、日本法の有資格者として最前線の戦略法務に従事しています。新しいプロダクトやサービス、キャンペーンなどの適法性を検討したり、業務提携や資金調達のストラクチャーを議論したり、社内のガバナンスを構築したりと、とにかく会社が抱える法的論点は全て担当します。もっとプロダクトに近いところで、典型的な法律家らしくない仕事でいうと、SmartNewsアプリに出てくるコンテンツはどういうふうに表示されるべきか、何が「良質な情報」なのかといったルールを設計する業務にも、リーガルマインドを持った人間として携わっています。特にスマートニュースはさまざまなプロダクトや業務でAIを活用しているわけですが、その AI が適切に安全に運用されるための制度設計、ガバナンスやルールづくりなどもこれに含まれます。
プロダクトを見るときは、エンジニアやプロダクト部門にいる方々 、開発側の組織と連携することが多いです。広告事業とサブスクリプション事業の双方が収益源であるため、それらの部門の方々とも頻繁にご一緒します。
経営陣に近いというのも、スマートニュースの法務の特徴かもしれません。経営陣とは日常的にコミュニケーションを取り合うので、彼らがどういった目線で事業を動かそうとしているのかを肌身で感じ取ることができます。
また、我々は膨大なデータを取り扱っていることから、ユーザのプライバシーを守るために、データを処理するチームともよく連携します。最後がコーポレート部門で、ガバナンスチーム、人事チーム、インセンティブ報酬の設計・管理チーム、リスク・コンプライアンスチームなどと密に連携しています。改めて言語化すると、会社の中のほとんど全ての方とお仕事させていただいていますね。
この社会をもっと前進させて、幸せな共同体をつくりたいと思ったからです。KenさんとKaiseiさんが挑戦している、Googleや Metaとは全く違うやり方で「世界中の良質な情報を必要な人に届ける」というミッションは社会を前進させるものだと思うし、ある種の仮説だとも思います。だから、その仮説を検証してみたい、社会に実装してみたいと思ったのが、僕なりにスマートニュースに興味を持った一番のきっかけです。
弁護士として法律事務所にいたとしても、面白いサービスやミッションを持ったスタートアップを支えるといった、やりがいのある仕事には出会えたとは思います。でもスマートニュースが掲げるミッションが一番僕のライフミッションにも近いと感じられたんです。自分が人生かけて実現してみたい「幸せな共同体をつくる、民主主義を次のフェーズに持っていく」ことに仕事としても取り込むことができるのがスマートニュースだった。しかもそれが正しかったから、僕は今もいます。
一番大きかったのは、KenさんとKaiseiさんの役割が変わったこと。僕はずっとCEO’s Office(社長室)を兼務していたので、入社当時CEOだったKenさんに近いところで仕事をしながら、コーポレート関連では任さん(任 宜/コーポレート部門長)に近いところで、データ関連だとKaiseiさんに近いところで仕事をしてきました。2023年11月からKenさんが代表取締役会長になり、代表取締役社長(CEO)がKaiseiさんになったため、二人の役割が変わったというのが、会社にとっても僕自身にとっても大きい変化でしたね。
もちろん、ビジネスについても色々と大きな変化がありました。新型コロナウイルスの大規模な感染拡大によって、情報を求めるユーザーが急増したり、それによって会社が一気に成長したり、その後また広告市場の成長が世界的に止まったりと、変化の激しさはやはりスタートアップに入る楽しさと難しさだなと。いつまでもずっと簡単に成長し続けることができれば良いのですが、そうもいかないというのが面白いところです。
いつの間にか自分が法務チームの中で一番古いメンバーになったのも大きな変化でした。入った時は誰かに何か教えてもらう立場だったのが、今は誰かに何かを教える立場です。
それで言うと、今はグローバルなリーガルグループ全体を率いてくれるSam (Sam Steinbach/Head of Global Legal) がいることで、法務の大先輩から組織を大きくしていくための技術や知恵を学ばせてもらっています。グローバルな法律家の働き方も非常に勉強になります。
また、23年の10月にCory (Cory Ondrejaka/最高技術責任者CTO)が入社したことも大きな出来事でした。彼は入社してごく短期間でスマートニュースの歴史とフィロソフィーを漏れなくダイジェストして、プロダクトビジョンという形で社内に言語化しました。来年の米国大統領選挙の年にこういうプロダクトを作るんだというビジョンをいきなり見せたわけです。彼のリーダーシップが、スマートニュースが本当にアメリカ市場でナンバーワンになるためのパズルのピースのような気がしています。
4年間さまざまなことがありましたが、大きいところでいうとKenさん、Kaiseiさんの役割分担の交代、Coryの入社、コロナ禍のドタバタ。ほんとにドタバタ。正直、あまりにも多くの変化に対応するのが必死で、あまり記憶がないことも少なくありません。
グローバルな会社の、しかも圧倒的に成長しないといけないプレッシャーのある組織のマネジメント方法をさまざまな面で学びました。グローバルな会社で課題になるのが、言語の壁とフィジカルコミュニケーションです。例えば東京オフィスだとみんなが直接会って話せますが、サンフランシスコやニューヨーク、パロアルトや上海やシンガポールのメンバー全員と会ってコミュニケーションを取るのは物理的に不可能で、基本的にオンラインのコミュニケーションになるわけです。そこでどういうふうに文化の違う人たちと本当の意味で理解しあえるか、プロジェクトを前に進めるかというのはずっと直面している課題です。たくさんの同僚たちにヒントをもらいながら、また各国のリーダーたちのマネジメント方法に触れながら、「なるほど、こういうふうにマネージするとうまくいくんだ」という感覚と事例を大いに学べたと思いますね。
僕もマネージャーとしてチームを率いる立場になったので、それも大きいですね。弁護士の仕事は一人でできることが多いので、法律事務所でもプロジェクトのマネジメント能力は問われるものの、チームの恒常的なマネジメント能力というのはそこまで問われることがなかった。
この会社に来て 、マネージャーになって、部下とのコミュニケーションの取り方や人事評価などを担当するようになり、どうすればそれぞれのメンバーが成長し、キャリアを積んでいけるかといった思考を明確に持つように訓練されました。
当然ながら、スマートニュースというテックカンパニーで、データや AI、組織ガバナンスといった分野の専門性を高めることもできました。
スマートニュースのような会社が直面する問題は、未だ法律や契約などが整っておらず、議論が十分にされていないことが少なくありません。嵐の中の船をコンパスだけを頼りに舵取りするようなイメージです。それはすごく楽しいですね。
そういった中で、実は僕は大学院の頃に憲法に関する本を書いてるんですが、当時はまさか憲法の知識がビジネスに活きるなんて思ってもみなかったのに、この会社に来て、まさに憲法にも関わる議論をいっぱいするようになりました。表現の自由やプライバシー権、ガバナンス、それらが支える民主主義といったトピックは憲法との関係が深いエリアなんですよね。自分の本を監修してくださった先生ともお仕事でご一緒させていただくなど、今思えばスティーブジョブズの”Connecting the dots”のような恵まれたご縁をすごく感じます。
自分の法務チームは5人のチームです。もう一人女性の弁護士がいて、あとはいわゆるパラリーガルやリーガルスタッフのような社員が3人、法務チームの上司としてSam がいます。
リーガルチームは女性の方が多いんです。僕とSamしか男性がいない。会社のジェンダーバランスは意識しなければならず、法務業界、ましてやスタートアップとなれば男性が多数派になることもままあるのですが、自分の入社当時からも法務チームは良いバランスが保てています。女性が多い組織の法務は従業員からしてもすごく接しやすいだろうし、人事関連の相談も女性の弁護士がいるだけでも全然違うだろうと思います。チーム内の雰囲気はいいですよ。なんでも気軽に相談し合えるし、お互いを信用しているし、コラボレーションはするんだけど、独立性を持った働き方をしていて、心理的安全性の高い組織です。
自分で成長する機会を活かせる人だと思います。この会社はやはりスタートアップなので、やらなきゃいけないことがいっぱいあるんですよね。成長できる機会はそこら中にあって、それを嫌がらずにちゃんと自分からアクティブに取りにいけるかが大事。そして周りには超一流の方々が在籍しているため、そこから超一流の働き方を積極的に学んでいけるか。それができると活躍できるし、できないと面白くなくなっていくんじゃないかな。だから、いわゆる「指示待ち人間」みたいな人は全く活躍できなくて、自分で仕事を見つけ、課題を見つけて修正していくような人はどんどん成長していく気がしますね。
スマートニュースは不思議な会社です。スタートアップなので圧倒的な成長が求められるし、売り上げや利益はもちろん追求しますが、それと同時に”For the Common Good”、公共の利益とか、社会のためにいいことって何なんだろうとか、そういうことを日々真剣に考えている人たちの集まりです。利益を上げたいということ以上に、この社会をもっと良くしていきたいという公益的な視点が強い組織だと思っていて、そういうカルチャーが好きな方はとても合うと思います。人間の限界をどうやってテクノロジーで超えていくか、どうしたらこの社会はテクノロジーの力でもっと良くできるのかみたいなことを真剣かつ繊細に考えようとしている会社です。そういう思考回路を持った方に、ぜひ来てほしいなと思います。