※2021年9月1日時点の内容です
2020年の7月です。
私の経歴は少しユニークかもしれません。大学では日本語と経済学を専攻しており、エンジニアになろうとは思っていませんでした。大学卒業後はALT(外国語指導助手)として働くために来日し、九州の宮崎県で4年間過ごしました。日本の職場で働く絶好の機会だったし、チームを組織してモチベーションを維持するために必要なことを学ぶこともできました。しかしずっと教師でいたいとは思っていなかったので、空いた時間はオンライン・コーディング講座や自分のプロジェクトに費やしました。現在エンジニアとしてのキャリアがあるのはそのおかげです。
主な要因は3つあります。1つ目は、兄がエンジニアで、兄もまったく別のキャリアからソフトウェア・エンジニアに転身したので、このキャリアへの転身は可能で現実的だと思ったことです。2つ目は、私は教師として学校に戻りたいとは思っていなかったので、一人でも始められる仕事を探していたこと。文字通り九州の山奥に住んでいたので、インターネットと機会があれば独学で学べるスキルである必要がありました。3つ目は、将来のライフスタイルを考えたこと。ソフトウェア・エンジニアリングは給与が魅力的であり、世界のどこにいても常に仕事があります。日本に住み始めて10年以上になりますが、その時点ではまだアメリカに戻ることを考えていました。
最初の会社は、正社員が6、7人しかいない小さな会社でしたが、国際的な製品を扱っていました。入社した当時、英語と日本語を話せるのは私だけだったと思います。なので、必要とされればどんな仕事でも手伝いました。コードを書いて本番環境にリリースしたり、カスタマーサポートを担当したり、SEOのローカライズやデジタルマーケティングに取り組んだり、投資家に製品や会社を売り込むイベントをサポートしたり、あらゆることに手を伸ばしながら、エンジニアとしてのキャリアをスタートさせました。言語的な側面では最初から非常に有利でしたしね。
次の会社では、日本市場と日本人ユーザーをターゲットにしており仕事の言語もすべて日本語でした。英語版アプリの翻訳など特定の場面では役に立ちましたが、全体的な業務では英語力はあまり必要とされていなかったので、私はICウェブデベロッパーの仕事に専念し、機会があったので最終的にチームのマネージャーになりました。
実はスマートニュースのことは最初の会社に入ったときから知っていました。2015年当時、私は東京のエンジニア・カルチャーやテック業界について情報収集を始めたばかりで、スマートニュースも当時は比較的小規模なスタートアップだったと思います。ピッチイベントを行ったり、最初のユーザー・マイルストーンや新機能に関するプレスリリースを発表したり、若く勢いのあるスタートアップが行うクールなことを一通りやっている段階とでもいいましょうか。その存在感は際立っていて、日本のテック業界における大きな成功事例のひとつと言われていました。私はスマートニュースに関する記事を見ては「彼らの成長の鍵は?彼らから学ぶべきことは?私たちも同じことをやるにはどうすれば?」と常にレーダーを張り続けていました。
ただ、SmartNewsアプリの熱心なユーザーという訳ではありませんでした。私は普段、いくつかの特定のパブリッシャーを通じてニュースを読んでいましたが、その一つであるアメリカのTechCrunchでスマートニュースについて目にする機会が増えました。彼らは日本とアメリカの両方で目をひく実績と成長を達成しており、非常に波に乗っている印象を受けました。
まさにそんなとき、リクルーターからスマートニュースのEM(エンジニアリング・マネジャー)ポジションに興味があるかと連絡があったんです。すぐに返事をしました。自分のキャリアの中で、グローバルな環境かつ、これまで経験したことのないようなスケールの大きな製品に携わるまたとない機会だと思いました。SmartNewsアプリは優れたエンジニアリングでも知られており、EMという職務内容とプロダクトの優位性は私のキャリア目標を満たしていました。また、当時の世界情勢から、スマートニュースの「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」というミッションはとても心に響くものがありました。エンジニアリング+マルチカルチャーという私のユニークなスキルセットで、会社をより高いレベルに引き上げることに挑戦したいと思ったんです。
面接の最初の段階で、HRのメンバーや現在のマネージャーと話しました。二人から説明されたのは、会社が現在どのような段階にあるのか、技術面でどの部分に行き詰まりを感じているか、私が面接を通過した場合どのようなプロジェクトに取り組むことになるのかなどにについてです。本当に良い対話ができました。その後、2回の技術面接があり、社内のさまざまなチームのエンジニアと交流しました。特にシステム設計の面接では、スマートニュースのエンジニアリングのレベルや取り組もうとしている課題のスケールの大きさを感じることができました。
これは他の会社とは少し違う部分かもしれませんが、正直なところ、面接プロセスの最後までどのチームに入るか100%決まっていませんでした。面接官の一人と同じチームになることが分かったのもオファーを受け取った後でした。質疑応答セッションは素晴らしいもので、スマートニュースで働く一日がどのようなものなのか、大まかなイメージができましたし、とても楽しみでした。現在のマネージャーも、チームの現状、取り組んでいる製品、今後6ヶ月の計画について、とても詳しく説明してくれました。現在の課題と、入社後に自分が最も価値を発揮できる場所について明確なイメージを持つことができたと思います。
当時の東京オフィスの、グロース・バックエンドチームのエンジニアリングマネージャーとして入社しました。数年前の話になりますが、プロダクトにフォーカスしたチームで、SmartNewsアプリ日本語版のニュース製品以外の大きな機能のほとんどに取り組んでいました。
例えば、(COVID-19)ワクチンチャンネルとワクチン関連のすべての機能、クーポンチャンネルとクーポン製品一式、雨雲レーダー、花粉レーダー、台風マップなどの気象機能、日本語版のトップページで閲覧できるトップカードのプラットフォームなどがあります。非常に国際的なチームで、5カ国から成る11人のバックエンド開発者とフルスタック開発者がいます。
面接のプロセスで言われたことはすべて本当だった、というのが正直なところです。ほんとですよ、社員がみんな頭がいいのも本当ですし(笑)技術レベルも高いです。チームが同時進行で取り組んでいるプロジェクトの数は、驚くほどです。実は、面接のときにそのことを聞いた時、チームの規模を考えるとその数は大げさなのかなと思っていたのですが、実際はそれ以上でした。優秀なチームメイトからは多くのことを学べます。しかし、それは同時に、入社する人は誰でも、同じレベルの期待をかけられるということです。スマートニュースでの仕事は、片手間でできるような簡単なものではありません。すべてのソフトウェア・エンジニアが、ユーザーのために製品をより良くすることに心から情熱を注いでおり、才能にあふれたメンバーが一緒に働いているからこそ、素晴らしい目標を達成できるのです。まとめると、入社してみて感じたことは「全てが期待以上だった」ということです。
数年前のパンデミック禍でのことです。私のチームはコロナ対応の第2段階と呼ぶべき機能を担当しており、日本でのワクチン接種に関する情報を提供しました。当時、簡単に利用でき信頼できるデータにアクセスできなかったため、情報を得るのはとても困難でした。日本政府がようやくデータを公開したとき、私たちは社内の優秀な人材を集めてチームを結成し、猛烈な「突貫工事モード」に入りました。プッシュ通知によるワクチンアラート、ワクチン・マップ、そしてこれらすべての公開データを収集するためのデータ・パイプラインの整備です。
これは、私が過去に経験したどの製品リリースとも異なるものでした。もし当時の私に「このような機能を1週間以内に構築することは可能か?」と尋ねたら、「そんなことはあり得ない」と答えたでしょう。しかし、献身的で、情熱的で、とにかく優秀なエンジニア・チームがいれば本当に限界はないのです。それを実感した、印象深いプロジェクトでした。
テック業界での面接にはどのようなタイプのものがあるか調べ、オンラインや書籍で準備と勉強をしておくことも重要です。コンピュータサイエンス、データ構造、アルゴリズムの基礎をブラッシュアップしたり学んだりし『LeetCode』や『Cracking the Coding Interview』といった資料で毎日問題練習をするとより良い結果が望めます。プログラミングの面接は、コーディング経験が長い人であれば問題ないでしょう。システム設計については、大手企業の有名なシステムを読みあさり、古典的な問題を深く掘り下げることです。動画サイトなどで典型的な面接動画を見ておくことで予習するのもいいですね。そして、システム設計の問題に正解はないことを忘れないでください。
あとはリラックスして、楽しんで、同僚と普段の仕事でエンジニアリングの問題に取り組んでいるところを想像して、流れに身を任せましょう。自分の頭の中から抜け出して、一連の要件に基づいて拡張性のあるシステムを構築するにはどうすればいいかという、より広い命題に入り込むようなイメージです。
おすすめの本を通して人を知る
この2冊の本は、まったく異なる理由で私にとって大きな意味を持ちます。一冊目は、村上春樹の『海辺のカフカ』。完全に日本語で読了した初めての本です。この本のおかげで漢字をたくさん覚え、カジュアルな日本語の表現を学ぶことができましたし、いつか日本に移住してみたいと思うようになりました。結果、もう10年以上日本で暮らし、家族もできました。
もう1冊は『スノウ・クラッシュ』です。これは高校生の時に読んだSF小説で、クールな悪党のピザ配達忍者ハッカーが、極悪なハッカーから世界を救う物語です。実に面白く、夢中になりました。コードを書いたりプログラムを作る力、そしてその力がいかに「クール」であるかについて、私の心に種を蒔いたのは間違いありません。現在のキャリアを歩む上で、最初に大きな影響を受けたもののひとつだと思います。
『海辺のカフカ 上・下』
著者:村上春樹
出版社:新潮社
出版年:2005
『スノウ・クラッシュ』
著者:ニール・スティーヴンスン
出版社:2001年
出版年:早川書房