小・中学生の頃には興味を持っていました。当時、プログラミングに興味を持つ子供って、大抵は自分でゲームを作ってみたくて勉強を始めることが多かったと思うのですが、僕も中学生の頃はゲームばかり作っていましたね。例えばその中の1つは、いわゆる『ぷよぷよ』のようなもので、当時のぷよぷよは2人対戦しかできなかったので、3人対戦できるバージョンを作ってみました。キーボードを3人でシェアして遊ぶみたいな。文化祭のとき、そのゲームを学校のパソコンにインストールして、ゲーム大会を開いたりしていましたね。そこからだんだんと、「より実用的なソフトを作ってみたい」、さらにもっと後には、インターネットが一般的になったこともあり「インターネットを使って何かを作ってみたい」と思うようになっていきました。一つのマシンの中で完結するプログラムから、インターネットによって外の世界と繋がることの面白さに関心が移っていったことは、自分にとって大きな変化だったと思います。
例えば、「ランチャー」というジャンルの、アプリケーションやファイルの起動を補助するソフトを作りました。Cool Launcherという名前で、今でもVectorというフリーソフトを集めたサイトに残っています。特集記事に取り上げられたことで、たくさんダウンロードしてもらえましたね。純粋に、自分でものを作って、その作ったものがインターネットを介し、人に使ってもらえることの嬉しさを感じていました。
根底にいつもあったのは、「自分が面白いと思えるものを追求して作りたい」という気持ちでした。起業したいという考え方が出てきたのは、大学に入って以降なのですが、そこでもやはり純粋に、「自分が面白いと思うものを作りたい」という思いがあり、それを一番高い確率で実現するためには、起業するという選択肢があるんだろうなあということを考え始めました。
そうですね。僕個人としては今も「世の中の課題解決型」ではなく、「自分の興味先行型」だと思います。鈴木健(代表取締役CEO)がビジョナリーで、先のことを見通して動くタイプですが、僕は遠い将来のことはあまり考えることができなくて、目の前にあるものの作り込みに意識を集中させるような職人タイプですね。
2009年に、共通の知人を介して出会いました。当時の僕は『Blogopolis』という、ブログの可視化サービスを開発して、Yahoo! JAPANのコンテストで受賞(インターネットクリエイティブアワード 一般の部 グランプリ)した頃で、そのことで鈴木が興味を持ってくれたみたいです。その時の鈴木は、直近に控えていた講演でのプレゼン用に、面白いデモを作りたいと考えていて、そのアイデアを僕と一緒にブレストしたかったようです。
その後は、彼がメンターのようなかたちで、僕が一人で作っているものに対して時々アドバイスをくれるという関係がしばらく続いていました。鈴木は、常に本質的なことを言ってくれるので、彼の視点や意見というものが、自分には強く刺さりました。ある日は二人でファミレスで朝まで話し合うこともあったりして、彼の熱量も本当に刺激になりました。結果、僕が作るものも徐々に良くなっていきました。その頃から「誰かと一緒にもの作りをするんだったら、この人とやってみたい」という気持ちが強くなっていきました。
そうですね。2010年から2011年にかけて僕が作った『Crowsnest』というニュースサービスがあって、SmartNewsはそのピボットとして生まれました。Crowsnestはインターネットからの情報収集とその分析、そして整理を行うための基盤技術を使っていて、その技術はSmartNewsにも直接応用されましたね。
最初から意識していました。Crowsnestを作っていた頃から、インターネット上にある世界中の情報を収集していて、英語や日本語だけでなく、例えばインドネシア語のような言語の情報も、ものすごく流通していることに気付いたんです。それらの言語まで扱えたら面白いだろうなと思い、言語判定モジュールを作ったりしていましたね。
日本でSmartNewsをリリースした2012年から2年後の2014年に、アメリカ版のSmartNewsの開発や拠点開設、採用も始めました。本当に何もないところからだったので、大変でした。
最低限は話せました。僕は凝り性なので、TOEICのスコアを上げることにはまっていた時期が大学生時代にあり、その時にある程度の勉強はしていました。ただ、2014年に実際にアメリカに行って、いろいろな人と話をしないといけなくなった時に初めて、やっぱり全然リアルコミュニケーションができないんだなという風に感じて、再勉強しました。幸いなことに、基礎の部分はTOEICマニアの時にやっていたので、プラスアルファで何とかなりました。
創業時にエンジニアリングをしていた僕の視点からすると、もの作りに対して丁寧かつ真摯に取り組む姿勢や、そうしたこだわりへの理解があるということがカルチャーとしてあると思います。
そうですね。このミッションがなければ、現在のような複数国展開での組織運営は難しかったと思います。例えば、海外の候補者の面接では、「この人にとっては、スマートニュースは日本という遠い国の会社にすぎない。どうしたら興味を持ってもらえるのか?」と考えます。その時に大切になるのは、やはりミッションに共感してもらえるかどうかだと思います。ミッションへの共感は、言語や文化の壁、時差を乗り越える力になります。
3Gから5Gへとモバイルネットワークが進化し、10年前は圏外だった地下鉄でも、ほぼインターネットが繋がるようになったことを考えれば、インフラそのものは圧倒的に発達したと言えます。SmartNewsも当初は「圏外でも快適にニュースが読めるアプリ」ということをアピールポイントにしていたくらいですから。しかし、そのインフラの上で届く情報の質まで劇的に進化したかというと、必ずしもそうは思いませんね。例えば、今でもフィルターバブルの問題が指摘されていますが、イーライ・パリサーがそれを最初に提起したのって2011年なんです。つまりもう10年前なのに、未だに解決策が出てきていないわけです。アメリカで懸念されている、情報の二極化と社会の分断は、それを象徴していますよね。解決しないといけない課題ですが、答えを見つけるのは簡単ではありません。
技術者や事業者の立場から見たとき、例えばクリック率を最大化することだけが、テクノロジーの開発目的となってしまっているからではないでしょうか。これは、より大きな視点に立って考えれば、状況を悪くしている可能性があります。
まずは僕たちのようなサービス提供者が、それらの問題がテクノロジーの使い方によるものであるという認識を真剣に持つことが本当に大切だと思っています。テクノロジーは使い道次第でどのような方向にも持っていけるわけですからね。フィルターバブルはパーソナライズによって生まれますが、本来、パーソナライズ自体は悪い技術ではないはずです。
まさしくそうですね。スマートニュースは「For the Common Good」というキーワードをコアバリューとすることで、「社会全体(Common)にとっての善(Good)を追求すること」を目的関数にしたいと思っています。
目標としているところには全然達していないです。いま、アメリカでの挑戦を続けているところですが、「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」という会社のミッションから考えるなら、たとえアメリカで成功しても「世界中」の一部に過ぎないと思っています。まだまだ解決しなくてはいけないことが多くあります。
おすすめの本を通して人を知る
この『事業計画作成とベンチャー経営の手引き』は総務省が作ったスライド資料で、正確には本ではないのですが、個人的にものすごく衝撃を受けたドキュメントなので、紹介させてもらいます。これが公開された2008年というのは、僕がおぼろげに「起業したいな」と思っていた頃で、とはいえ、現在に比べると起業家にとっての情報やエコシステムが整備されていない時期でした。「よく分からないけど、頑張って起業してみよう」くらいに考えていた当時、総務省が面白い資料を公開したという話を聞き、軽い気持ちで読んでみたんです。そしたらそこには、「ベンチャーの位置付けや置かれた状況を十分に理解しているとは思えないベンチャー社長や創業準備中の人間が驚くほど多い」という厳しい言葉に始まり、「あなたは友人の友人に頼み込むなど面倒なステップも踏んで、顧客候補や業界キーパーソンとの多数のインタビューを設定したのか?」とか「顧客ニーズ、顧客特性、顧客セグメンテーションについて2、3時間は語り続けられるほど顧客を研究し尽くしたのか?」などと書かれていたんです。一切の逃げを許してくれない内容でした(笑)。この資料を読んだことで、自分の姿勢は変わりましたね。「ここまでやらなきゃダメなんだ」と。現在のスマートニュースでは、社内で新規事業のような形で新しいチャレンジに取り組む機会も増えていますが、そのような事業計画を作成するビジネスオーナーや、あるいはプロダクトマネージャーの人たちにも是非読んでほしいですね。
『事業計画作成とベンチャー経営の手引き』
作成:総務省
公開年月:2008年3月