遡って話すと、私は高校3年の夏まで野球しかやっていなかったような学生でした。結果として進学した大学の商学部も、選んだ観点としては受験科目の中にどれだけ自分の得意科目が入っていて勉強量を少なくできるかみたいなところでしたから(笑)。でもそこで経営学を専攻したことで、会社経営のようなビジネスの面白さに気付くことができたのは結果的にすごく大きかったなと思います。
経営学の研究として例えば創業当時のソニーやトヨタの歴史を調べると、学生の浅い知識ながらも「この時がきっと一番面白かっただろうな」と思えるような時期が分かってくるんです。「このステージの時にこの会社はこんなことをやっていたのか」と調べる中で、特に「このステージの時に」という部分、つまり大きな可能性を持った企業のアーリーステージに興味を持つようになり、「じゃあ今後日本でどんな会社がそうなりえるのか?」といった観点から自分のやりたいことを考えるようになりました。それが当時のインターネット業界であり、楽天でした。より小規模なベンチャーも考えましたが、まだスキルのなかった自分にとって、当時の楽天はものすごいスピードで成長しながらも基礎的なスキルを身につけていける環境が整っていたことが大きかったです。
そうですね。楽天で立ち上げを担当した新規事業が日本である程度うまくいき、海外にも進出することになったので事業ごとシンガポールに持っていったんです。そこから4年弱くらいは向こうにいました。前職でも新規事業の立ち上げなど色々なポジションにチャレンジするチャンスはあったのですが、よりアーリーステージの企業で会社全体の成長や戦略に深く関わってみたいという気持ちが大きくなり、そこから、いわゆるスタートアップ系の企業をいくつか紹介してもらって色々話をさせてもらいました。 その中の一社がスマートニュースでした。
正直スマートニュースはもう既に大きくなり過ぎていると思ったんですけど(笑)、面接の過程でこの会社が掲げる「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」というミッションの、「情報を必要な人に」って、考えてみたら情報を必要じゃない人なんてこの世の中にいないということに気付いたんです。だとしたらスマートニュースが目指す最終形とは世界中の全員に使ってもらうことなわけで、それなら私がこの会社でインパクトを与えられる余地もまだあるのかなと思うことができました。それまではニュースアプリというものについても、パブリッシャーが作ってくれたコンテンツを配信するだけの役割といった限定的な捉え方をしてしまっていたのですが、スマートニュースのミッションに当てはめることでその考え方も一気に変わりました。何より健さん(代表取締役の鈴木健)と話したことでこの会社への興味が出来あがっちゃったんですよね。
面接の時に私から「スマートニュースが目指しているものってなんですか?」と聞いてみたんです。てっきり自分たちのビジネスをどうやって大きくしていくかみたいな話だと思っていたら、健さんから返ってきたのは「正しい民主主義への貢献をしたい」という答えでした。想像していたより何倍もスケールの大きな話だったのですごく印象に残っています。私の面接のはずが、60分の内、45分くらいは健さんによる民主主義の変遷やフィルターバブルについての熱弁を聞いていました(笑)。共同創業者の健さんから感じた熱量や、会社の中でまだまたインパクトを出せると思えた環境、ミッションの壮大さに惹かれて入社を決意しました。
入社当初も部門としてはプロダクトでしたが役割としてはビジネスプランニングのようなことを1人でやっていて、そこからマーケティングに主軸を置いた時期もあり、さらにマーケティングとプロダクトを半々でやるようになって、現在はまたプロダクト部門に戻って来ました。やっている内容自体は正直ほぼ変わっていないんですけどね。
基本的には「スマートニュースを成長させるためであれば何をやっても良い」と言われています。「スマートニュースを成長させる」とはつまり、会社のビジネスモデルを前提とするなら、それは大きく分けて「ユーザーを増やすこと」もしくは「1ユーザーあたりの収益性を上げること」です。そのためのプロジェクトに着手することが私のやっている内容ですね。
「ユーザーを増やすこと」と「その収益性を上げること」の二つがありますが、一時的には後者のプロジェクトにも携わりましたが、現在も含めて基本的には前者を担当範囲とし、「日本におけるスマートニュースのユーザーを最大化すること」を目標にしています。そのため、例えば私がプロダクトマネージャーとして立ち上げからリリースまで関わったクーポンチャンネルの時も、ただプロダクトにアプローチして終わりというわけではなく、実際に扱うクーポンを集めてくるところから自分でやっていました。
普通はどうなんですかね(笑)。プロダクトマネージャーって本当に様々な定義があるものですし、プロダクトの作り方もまた色々な形がありますから。スマートニュースの場合は特に個性的かもしれません。
プロダクトを作るチームって、スマートニュースではそれをスクワッド(Squad)と呼んでいますが、よくある形としてはプロダクトマネージャーとエンジニアによってマネジメントされるものだと思います。しかし我々の場合はそこにマーケティングのメンバーやコンテンツを獲得してくるメンバーも含めることで、作ったプロダクトをユーザーにちゃんと知ってもらうこと、そしてちゃんと使ってもらうところまでをプロジェクトに含めてトータルでプランニングしているんです。
結局のところ選ぶポイントは「それがどれだけインパクトを出せるものなのか?」というところでしかありません。私が担当している領域で言うなら「インパクト=より多くのユーザーに使ってもらうこと」ですから、つまりはユーザーがその時々で必要としている機能を作ることがすべてなんです。もちろんアンケートを取ったりリサーチャーに聞いたりユーザーを呼んでインタビューをすることで今流行っているサービスを知り、それを我々のプロダクトにどうやって変換していくかを探ったりもしますが、案外ヒントになるのは友人や家族との会話だったりするんですよね。自分のまわりの近しい人たちが今どんなことに困っているのかみたいな、そういった話を意識的に聞くようにしています。
「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」というのがスマートニュースのミッションですが、情報というところを考えるなら、我々が現在取り扱えている情報はまだほんの一部でしかないと思っています。私が3年前に携わったクーポンチャンネルもそうした課題感から、当時のスマートニュースが扱う情報としては少し系統の違うものでしたが、ユーザーにとっては必要であるという思いでリリースしました。これからもそうやって幅を拡大し、ユーザーそれぞれにとって必要な情報をもっと提供できるようなプロダクトを作っていきたいです。
はい。特にグロースのUS側のスクワッドとはかなり密に情報共有しています。JPとUSではマーケット特性が違ったりもするので優先的に取り組むテーマも別だったりしますが、それでも例えばUSの成功事例を元に「じゃあこれを日本に展開するならこの部分をカスタマイズした方がうまくいくんじゃないか」とか、もしくは「いっそ真逆のことをやろう」とか、そういった議論をしながらプロダクトを展開していくという動きは非常に増えています。将来的にJPとUS以外の国への展開も含めて、スマートニュースが基本的にひとつのアプリであるからこその、こうした「世界で戦っている」感じってすごく楽しいんですよね。
クロスファンクショナルなスクワッドをマネジメントしていくことになるので、合意形成を生むようなコミュニケーション能力というのは当然必要な上で、やはり良いプロダクトを作るということだけでなく、そのプロダクトによってちゃんとインパクトを出すことに意識を向けられる人が良いですね。プロダクトの開発領域だけでなく、ビジネス領域にも知見がある方がより向いている仕事かなと思います。
おすすめの本を通して人を知る
これはお笑い芸人のオードリー若林さんが書かれた本です。まず私がオードリーを大好きということが前提としてあって(笑)、最初はそこから興味を持って読みました。内容としてはノンフィクションの旅行記で、若林さんが日本で感じていたという「成功してお金を稼ぐことが正義」みたいなことの居心地の悪さ、その違和感はもしかしたら「社会システムのせいなんじゃないか?」という考えから、「じゃあ社会システムの全然違う国に行ってみよう」ということでキューバを訪れるという話です。私自身が旅行好きというのもあるんですけど、この本を読んだことで私も実際にキューバを訪れ、多様な価値観を考えるきっかけにすることができました。若林さんほどには思い悩んでもいないし内省もできていませんが、それでも「自分がもしキューバで生まれていたらどんなことを考えるんだろう?どんなものが必要なのかな?」みたいに色々と想像することで、「考え方なんて人によって違うんだから、自分の中に“これは当たり前”みたいなものは持っちゃいけないな」ということをこの本は改めて気付かせてくれました。
『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』
著者:若林正恭
出版社:KADOKAWA
出版年月:2017年7月