Inside SmartNews
メディアからアグリゲーターの内側へ 「良質な情報を届ける」を、ルールとプロダクトに実装し続けた7年間

スマートニュースでメディア事業開発を担う、荒牧航さん。新聞記者からキャリアをスタートさせ、デジタル改革の責任者を務めた後、2019年にニュースアグリゲーターであるスマートニュース株式会社へ参画しました。
入社してからのこの約7年間は、コロナ禍、選挙とフェイクニュース、そして生成AIの台頭と、日本のニュース流通が激動した期間でもあります。
「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」というミッションと、「For the Common Good(共通善のために)」というコアバリュー。メディア業界を取り巻く環境が大きく変化するなかで、これらの理念は、いかにしてSmartNewsのガイドラインやプロダクトに実装されてきたのでしょうか。荒牧さんに、同社におけるメディア事業のリアルを語っていただきました。
プロフィール
荒牧 航
Wataru Aramaki
Head of JP Media Partnership
大学では哲学科美学美術史専攻。千葉日報社で社会部記者、船橋支局長を務める。2014年に中小企業診断士登録後、取材現場を離れ、デジタル改革の責任者として経営企画室長とデジタル担当執行役員を兼務。2019年9月、スマートニュース株式会社に参画。Head of JP Content & Media BDとしてニュースコンテンツ関連業務を統括したのち、現在はメディア事業開発を専任し、AIパートナープログラムの推進にフォーカスしている。
「クーポンのアプリ」という印象が、一冊の本でひっくり返った
─ まずは、スマートニュースに入社されるまでのご経歴から教えてください。
大学卒業後、海外をうろうろしていたのですが、金欠で帰国。千葉の地方紙に入って新聞記者からキャリアをスタートしました。事件事故などの現場を毎日走り回っていたのですが、転機は2014年。ビジネスを体系的に学ぼうと一念発起し、中小企業診断士の資格を取得しました。運良くそのタイミングで、デジタル改革を推進するよう、支局から本社に呼び戻されました。

そんなわけで、30代は取材現場を離れ、ニュースメディアビジネスの隅々まで学び、経験を積むことに時間を費やすことができました。日本新聞協会の委員もやらせていただいて、業界全体の課題にも関わるようになっていきました。
─ そこからなぜ、スマートニュースだったのでしょう。
エージェントに紹介されたのがきっかけでした。もちろん、ニュースアプリとしてのSmartNewsは外部配信先の一つで、“中の人”とも繋がりはあったのですが、当時の印象は「クーポンのアプリ」でしかなく興味がなかったんです(笑)。
考えが変わったのは、スマートニュース共同創業者の鈴木健が書いた『なめらかな社会とその敵』を読んでからです。あれは社会の仕組みそのものを設計し直そうという思想書なんですね。難解ですべては理解できていませんが、こんなことを考えている人物がつくった会社が、なぜニュースアプリをやっているのか。「クーポンのアプリ」という印象から、社会の仕組みをリデザインしようとする企業へと、見方が大きく変わりました。

採用面接で出会った人たちも、人文知を持ったメンバーが多く、大学で哲学科に属していた自分としては、テクノロジーベンチャーでありながら「情報空間とは何か」「公共性とは何か」といった会話が普通に成立する組織の懐の深さに、素直に感動したのを覚えています。いま業界で起きている変化は、媒体の外側にいるアグリゲーターの側から見たほうが、構造がはっきり見えるんじゃないか。一度媒体から離れて、俯瞰する位置に立ってみたい。そう思えたことが決め手でした。
入社4カ月でコロナ禍。「ミッション」がまっすぐ現場に
─ 入社直後に、新型コロナウイルスの感染拡大が始まりました。
そうなんです。入社から4カ月後の2020年1月中旬に国内初感染が確認されたのち、SmartNewsは2月には「新型コロナウイルス チャンネル」を立ち上げ、4月には「新型コロナウイルス 感染状況マップ」を公開しました。あの数ヶ月の動きの速さは、いまでも社内で定期的に振り返られるエピソードになっています。
─ 荒牧さんはどのような関わりを?
中心メンバーではありませんでしたが、コンテンツ編成やデータチェックの側面でプロジェクトには関わっており、「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」という当社のミッションが、標語ではなく、そのまま現場での業務指示書になっている様子を目の当たりにしました。
何を優先するか、迷う必要がなかった。不安のなかで情報を探している人が目の前に何千万人といて、その人たちに正確な情報を最短で届ける。それ以外にやることがない、という状態でした。入社直後に、ミッションがそのまま形になるプロジェクトに貢献できたことは、この会社で働く意味を体で理解する貴重な出来事になりました。
「期日前投票マップ」に頭を抱えた話
─ その後、国政選挙のプロジェクトも担当されています。
はい。国政選挙はスマートニュースにとって特別な位置づけの取り組みで、私は直接・間接に、毎回関わっています。なかでも忘れられないのが、2021年の衆議院選挙です。より多くの方が必要な情報にアクセスし、円滑に投票できるようにするために何ができるかという議論のなかで、「期日前投票所マップ」というアイデアが出てきました。ユーザーが自分の住んでいる地域を選ぶと、どこで期日前投票ができるのかが地図で分かる、という機能です。
─ 便利な機能ですね。
アイデアを聞いた瞬間は、「スマートニュースはすごいな」と感心しました。新聞の選挙報道は「争点は何か」「各候補者の動きや主張は何か」を伝えることが中心で、それ自体は投票行動の参考にしてもらう上で重要なのですが、ユーザーアクションに着目して「どうやって投票所にたどり着いてもらうか」という導線そのものをプロダクトにする、という考え方は、正直当時の私はまだ十分に持てていませんでした。
と、感心したのは3秒くらいで、次の瞬間には頭を抱えました(笑)。「これ、どうやって実現するんだ」と。

─ といいますと?
期日前投票所の情報は、全国の自治体・選管がそれぞれ個別に公表しているんです。データの入手先もファイルフォーマットもバラバラだし、前回選挙の古い情報が更新されていないケースもありました。さらには、同じ小選挙区内の期日前投票所であっても、居住する行政区画によって条件が分岐するといった複雑な事例もありました。
結論から言うと、技術的なソリューションと人海戦術との合わせ技で実現しました。データチェックチームを組んで、不明瞭な箇所はひとつずつ確認して、地道に集めて、整えていく。テックカンパニーと言われる会社の内側で、まったく泥臭い作業をやったわけです。
また、私が全体統括していた2025年の参議院選挙プロジェクトでは、社会問題化するフェイクニュースへの対応に強い問題意識を持ったメンバーが、専門機関や報道機関によるファクトチェック記事などを集約する「ファクトチェックチャンネル」のリリースを実現してくれました。ミッションに共感した人たちが、この会社に集まっていることの表れだと思います。
営利と理念の板挟み。その間に、ルールで一本筋を通す
─ コンテンツ関連のポリシー整備にも、率先して取り組まれてきたと伺いました。
これは、自分のキャリアだからこそやるべきだと思った仕事でした。
SmartNewsには、配信される記事をチェックするモデレーション(コンテンツ監視)チームがあります。また、良質な情報を届けるためのアルゴリズムもあります。私の入社時、これらの判断の拠りどころとなるガイドラインの言語化が十分ではない領域がありました。
プロジェクト化してガイドラインを整えるにあたり、力を入れたことの一つが、いわゆる「コタツ記事」への対応です。
─ 取材をせずに、テレビやSNSの内容をまとめた記事ですね。
はい。PVだけを追いかけて、コストをかけずに量産できる記事が増えていくと、丁寧に取材をして、時間とお金をかけて記事を書いている媒体社が報われなくなります。これは「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」というミッションと、真正面からぶつかります。
もちろん、現在では著名人や政治家たちも、SNSでの発信を公式発表と位置づけるケースも増えており、コタツ記事的なものがすべて問題だとは考えていません。しかし、他者の著作物に依存した記事が安易に量産されることは望ましくないという考えのもと、2022年に公表した媒体ガイドラインのなかに、「他者の著作物への過度な依存」に対する制限ルールを盛り込みました。

─ 媒体社の反応はいかがでしたか。
公表直後にネット番組で議論のテーマとして取り上げられるなど、一部で話題になりました。これは当社にとっても、コンテンツを日々配信いただく媒体各社にとっても、営利と理念の間のバランスの問題ですが、「For the Common Good(共通善のために)」という社のコアバリューに従って社内外に対して一本筋を通した説明ができました。
ただ、当然この問題はガイドラインができれば万事解決するわけもなく、「持続可能なコンテンツエコシステムの実現」に向けた業界全体の模索は今も続いていると言えるでしょう。
生成AIの時代に、媒体社とどう向き合うか
─ 2024年からは、メディアパートナーシップもマネジメントされる立場になりました。
はい。あわせて社外では、一般社団法人インターネットメディア協会(JIMA)の事務局長も務めることになりました。ネットメディアの健全な発展を目指す業界団体で、媒体各社と本当に近い距離で、同じテーブルについて課題を議論する機会が増えました。
プラットフォームの立場でありながら、業界の一員として課題を共有する。かつて新聞協会の委員をしていた頃と、見ている景色が重なる部分もあって、自分のキャリアが一本につながった感覚がありました。
─ そして2025年7月、生成AIを活用した「スマニューAI」がリリースされました。
これは、新しいコンテンツ体験のプロダクトです。そして私にとっては、これまでで最も社内外の対話が求められる仕事になりました。
生成AIと報道コンテンツの関係は、いま世界中のメディアが神経を尖らせているテーマの一つです。無断で学習に使われるのではないか、トラフィックを奪われるのではないか。媒体社のみなさんが不安を持たれるのは当然のことです。
だからこそ私は、「Media Prosper」──媒体社が繁栄することがプラットフォームの前提である、という当社の共栄理念に基づいて、各社に連携を呼びかけてきました。AIの時代に、コンテンツをつくる側とそれを届ける側がどういう関係を結べば、双方が持続可能になるのか。その設計を一緒に考えませんか、という話をしに行くわけです。
─ 社内では、生成AIを使ったプロダクト開発を学ぶ場づくりも推進されていると伺いました。
2025年から、社内の優秀な「プロトタイパー」に指導をお願いして、ビジネス職のメンバーが生成AIを使ったプロトタイプ開発を学べる場をつくっています。私自身はもちろん、チームのメンバーも、今ではClaude Codeでチームに必要なツールを自作しながら、日々の業務改善と価値創造に取り組んでいます。
こういう学びの環境が、誰かが上から用意するのではなく、現場から自然に立ち上がってくる。それが許される会社であるというのは、スマートニュースならではだと思います。
社会課題を、事業として解きたい人へ
─ 最後に、スマートニュースで働くことに関心を持っている方へメッセージをお願いします。
改めて振り返ると、ミッションドリブンという言葉が本当に機能している、まれな会社だと思います。
コロナ禍でも、選挙でも、ガイドラインでも、AIでも、判断に迷ったときに立ち返る場所が同じなんです。「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」。そして「For the Common Good(共通善のために)」。この2つが、社内の議論のなかで実際に引用される。単に成長しているテックベンチャーで働きたいだけなら、他にも選択肢はたくさんあるはずです。
でも、テクノロジーの力で事業をつくることと、社会課題を解くことを、同時にやりたい。どちらかではなく、両方やりたい。そういう欲張りな人にとっては、ここは本当にうってつけの場所です。
正直に言えば、この仕事は華やかではありません。泥臭い作業と板挟みの連続です。それでも、決めた一行のルールや、つくった一つの機能が、日本の情報環境を少しだけ良い方向に動かすことがある。その手応えは、なかなか他では得られません。
だからこそ、情報のあり方に問題意識を持っている方、社会課題を事業として解きたい方、そしてメディアビジネスの発展に大きな関心を持っている方たちと、ぜひ一緒に働きたいですね。お待ちしています。
